戦渦の中、絶望の淵に突然現れた鹿に神の姿を見た戦士。 跪き、手を胸で合わせた戦士は、甲冑にマント、サンダル靴、腰には剣、左横にはヘルメットと弓矢、彼の後ろには犬の姿も見えます。深い森を表すように樹木が全体覆い、左上部には、崖の上に現れた牡鹿が悠然と戦士を見つめている姿が描かれています。

戦士の足や腕あたりの筋肉、鹿の足や角、木々の細かな細工など注目してご覧下さい。それにしてもこの彫りは凄いとしか言いようがありませんね。人間の創り出す物の凄まじさを見せ付けられる思いです。
遠近方が使われた構図、 物語性のあるモチーフ。そして、それを囲む額縁装飾も立体的な透かし彫りで、流れるような葉のデザインが見事に表現されています。象牙の作品としては、今までに扱った中で一番素晴らしい作品です。
表面の左右の先端に見えるやや黄色がたった部分と、裏面の中心部分を走る線は傷や汚れではなく、象牙の神経が通っていた箇所で、この作品が象牙の中心部分の素材の一番良い所を使って作ったことが分かります。

19世紀中期

スイス or ドイツ

7.6cmX6.8cm